もてなしの原点

おもえば若い日のこおろぎは
娘として、妻として、母として
職業人として、それなりに重責もあったでしょうけれど

ずいぶん身軽に旅をしました。


でもこの10年ほどは、観光など無縁、
いつだって頭の中は仕事のことしかない『移動」ばかりでした。

それが
今回の講演、午前9時受付開始とのことで
その前にパソコン調整等しなければならず、
必然的に前日入りになったため、


図らずも小旅行となったのでした。


一度は行きたいと思っていた岩内は
予想以上に美しい町でした。


そして
こおろぎの思い出深い画家、
木田金次郎の美術館を訪ねることができました。


有島武郎の「生まれ出ずる悩み」は
こおろぎ小学校5年生の時、読書感想文を書いて
ずいぶんと立派な賞をいただいたのでした。

有島が木田に

「君よ 春がくるのだ
冬のあとには・・必ず春がくるのだ
君の上にも・正しく力強い・・・春が微笑めよかし・・・」というようなことを伝える。


そのフレーズが
こおろぎを今日まで支えてきたのかもしれないと
思うほど、
こおろぎに大きな影響を与えた小説であり、
その主人公の木田金次郎なのです。


その美術館を訪ねて
こおろぎは大きく打震えました。

木田の絵にはただただ
力あふれるていました。

そして

「うまくなったでしょう。でもこのつぎはもっといいものが描けます」

とそんなフレーズが口癖だったと知って、

こおろぎはまた泣きそうになったのでした。


小さいけれど
とてもすてきな美術館でした。

一階の小さなカフェで
イチゴのかき氷。

スプンを紙ナプキンで包んであって

それがまた
なんともうれしくて

こおろぎは
パリに行ったときより幸せな気持ちになったのでした。



その夜は
今回の講演の担当者KAWAMURA夫妻と食事の約束。

以前、成人式にお招きいただいたときお世話になり、
時々、連絡を取り合ってきました。



その彼が『イチオシ」のレストランへお誘いくださいました!





海沿いを走り、小高い丘を登ったそこには
あたたかな灯りと、炭火が見えました。

えーっ

ここはどこ?!

カブトムシとこおろぎ夫妻は大仰天!

そうです、そこは彼のご自宅のお庭、しかも
彼自作のバーベキューハウスだったのです。

え?
作ったの?
ご自身で?


ああこの贅沢。

北国の短い夏、
若いご夫妻はこの手製のバーベキューハウスで
晴れた日はご飯だそうです。


大感動。


センセー、食べてね!
センセー、たくさん食べてね!



すすめられるものはどれも
海の幸がそのまま。


燃える炭火で
磯の香りが広がり、

こおろぎとカブトムシは
ビールを飲む手もとまり
大興奮でした。


生活美学のテキストは9月中旬出版になります。
3冊シリーズの3冊目から出版で「生活をデザインする」です。
苦戦したこおろぎも2節書かせていただきました。
ホッとしたのもつかの間、

そのシリーズの1冊目
「生活の美学を探求する」の執筆依頼が
正式にありそうです。
こおろぎの担当は「おもてなし」。


あちこちの『プロ」のもてなしをあれこれ論じるのは得意です。
でも
いつも何か違う・・・と思っていた、その
「何か」がはっきりとわかった気がします。


食の外部化にともない、
日本人は「家庭」をもてなしの場にしなくなった。
核家族化の問題も、都市化も
家のサイズの問題もありましょう。

でも
何かを捨てたのだと思います。

その「何か」をKAWAMURA夫妻が思いださせてくれました。



このウニを見よ!

ざるに入っているこのウニ!

食べても食べても減りません。

海水に浸けたいわゆる塩水ウニ。



そして見てください。この美しいおむすび。

最高の演出。

添えてあったのは、漁師さん自家製の本物の海苔。
松前海苔が有名ですが
冬の一時、漁師さんたちが作る極上の海苔が添えられていました。



センセー、ご飯にウニのっけて
その海苔で巻いてたべてね!


「はいっ!」

と、こおろぎとカブトムシのアホ夫婦は
大感動のお夕食を堪能したのでした。


食事は命を支えるものなのに
いつのまにか外部に任せて平気になってしまいました。
サプリメントにも抵抗がなくなりました。

だれかを歓迎するのも
見送るのも
「外部」でするのが当然になってしまった日本、

やっぱり何かが狂ってきましたね・・・


『もてなし論」を書く前に
泊村でこのようなおもてなしを受けて
本当によかったです。




そして
講演の際、参加者にお願いした
思い出に残るお弁当と、海苔弁当の記憶、
さらにべこ餅の思い出や情報、
なんと170枚ものすばらしいアンケート用紙が
送られてきました。
どれもイラスト満載で大恐縮。

お一人ずつにお礼を申し上げたい思いでいっぱいです。

後志のみなさま、
本当にありがとうございました。
いただいた情報は貴重な資料です。
大切に分析し、よい報告ができるよう最大努力をいたします。


9月を前に、こおろぎは
新しい方向を見つけることが出来た気がしています。



奥様のやさしさたっぷりのおむすびと、漁師さん手製のウニと貴重な海苔、
細かいネットで囲まれた頑丈なバーベキューハウスと
赤い炭火・・・・
ちょっぴりこげたホッケの塩味は
経験のない至極の味。


星がいくつついているかを競ったグルメブームが
多くの日本人を踊らせました。

でも
やっぱり違う。
「それはそれ」
そして
「これはこれ」

バブル経済破綻後、
もしかしたら
こおろぎ自身も
知らず知らずのうちに軸足の『揺れ」を
見失っていたのかもしれません。


近年にない極上の夕飯でした。


若いお二人に感謝。

人間のホンモノの魂に触れた夜でした。