考える秋

madam-cricket2008-09-27

短い距離だったけどタクシーに乗った。
女性ドライバーだった。

上手な運転だったので
「お上手ですね」と思わず言ったら
27年タクシーに乗っていますから、と笑った。
「すばらしい!」と続けると
ちょっと会話が始まった。


訳があって6歳、5歳、4歳の3人の子供を一人で
育てなければならなくなったとのこと。
誰の力も借りず、子育てするには
当時タクシードライバーしかなく、
資格を取ったという。
年子の3人はよく彼女に協力し
アルバイトで高校を卒業。
大学は国立。授業料免除で育英会奨学金で卒業。
長男には4万、二男には3万の仕送りしかできなかったという。
長男は初めから公認会計士をめざし、
卒業と同時に難関の試験に合格。去年若くして彼女に
家を買ってくれたとのこと。
二男も公務員をめざしてこちらも合格。
末っ子の女の子も今年お寺に嫁ぎ幸せになったという。


明るい女性だった。
北海道出身の人ではない言葉だった。
お幸せですね、と言うと
「他に方法がなかったからですよ」と笑い、
「子供たちが立派だったですね」と言った。


アルバイトしながら受験勉強をし
目的をもって努力したのも
苦労しながらがんばる母の姿があったからだと思う。


タクシーを降りるとき
「いいお話をうかがえて嬉かったです」と言うと

彼女は後ろの席の私をしっかりと見て
「お客さん、ごめんなさいね、私の話なんか
聞かせて、ごめんなさいね。」と繰り返した。

27年一生懸命タクシードライバーを続けてきて
初めてお客に自分のことを話したのだという。
なぜ今お客さんに話したのか不思議でならないと
首をかしげ、
失礼しました、と何度も言った。

彼女の話しは本当だろう。
その子育ても苦労も実話だろう。
そして27年、お客に子供の話をしたことがないというのも
私に話したことが不思議だというのも
全部本当だろう。


27度という暑さの翌日、10度近くまで気温が下がった夕方だった。
突然の秋を感じた夕方、
たまたま乗り合わせたタクシーのドライバーとお客の間に
不思議な力が働いて
彼女はおもわず胸の中にあったなにかの思いを
見ず知らずの私に語ってしまった。
「不思議です、ほんとに。」という気持ちがよくわかる。


「これからもよいお仕事をなさってください」と
言って降りると、
「ご縁があったら、また乗ってください」と
彼女も笑った。
お互いに「ありがとうございました」と大きな声で
言って別れた。


素敵な「母」に会えて幸せだった。
やりすぎない「母」だから
子供達は立派に育ったのだ。
自分でがんばれ、という励ましが
ストレートに子供たちに伝わったのだと思う。
そして
理屈や理想を語るだけでなく
働く大人に育った子供達は本当に立派だと思う。


すっかり秋。
とうとう我慢できずに
今日はストーブをつけた。


私はどんな母だったのだろうか。
母らしいことを何もしなかったし
今もしていない。
欲しいものがあったら
手を伸ばしなさい、
それだけかしら、いい続けてることって。


秋風というより
冬の風。


考えることがどっさりある
季節です。

よい週末を。
そして考えることがあったらちゃんと考える
週末に!