はなもどきこおろぎ一家


寺内貫太郎一家というドラマがあった。
こおろぎんちはなんとなく、あの一家に共通するものがある。
古くは「時間ですよ」ってのもあったわ。

サザエさんちとは違う。
あの平和感と清潔感は全くない。
こおろぎさんちのドタバタドラマは
もう朝の連続ドラマ以上のドラマ展開。
渦中にいると、なにが正常でなにが異常なのか
わからないほどドラマチックです。


試験と追試におわれながら居酒屋バイトに明け暮れていたキキ、
沖縄でリフレッシュしてきたがすぐバリ島に飛ぶらしい。
おそろしいほど貧乏で旅も気の毒なほどの所持金だけれど
心優しいお友達にささえられて貧乏ライフも楽しそう。



一人暮らしのアパートには相変わらずカーテンのベッドもテーブルも
テレビもパソコンもない。こおろぎは一度も行ったことがないので
よくわからないけれど
とんでもない散らかりらしい。頻繁に帰ってくるし、奨学金とバイトで
一円も親の援助を受けずに生きているのだから、ま、がんばってね、
と見守るだけ。
そのキキが先輩からベッドをもらうことになった。
どうやって運ぼうかと相談されたので
大学をはさんでそう遠くないのなら
歩いて運んだら、とアドバイスした。


それが、ま、ま、まさかの現実になった。
ベッド、どうやって運んだ?と聞いたら
「歩いて運んだよ!」と、ケロリと答えた。


「ウソっ!」


近いといってもです、医大をはさんで南北に7条ほどあって、何丁か東西にもあって
信号もあって・・そこを
キキ、あんた、歩いてベッドを運んだって?!


「誰と?」
「ヨーコちゃんと」
「どーやって?」
「よいしょ、よいしょって」


あほか!
痩せても太ってもとりあえずS医大の女子学生二人、
それも23歳になろうという妙齢の女の子二人、
歩いてベッド運んだってか?


あまりの重さで3分運んだら一休みしたというのだけれど
二人でベッドに座って休んだって
ウソのようなホントの話らしい。
交通量の少なくない都心の真っ只中、怪しい女子学生二人、
信号待ちでベッドに座ってる姿、想像しただけで絶句!
驚愕である。



でもねー
こおろぎも若い日、下宿の前にバスが留まったらどんなに便利かと
バス停の標識を下宿の前に運んだことがある。
コンクリートに立っている標識だから尋常の重さではない。
重かったなー。酔った勢いで友達と二人でね。
翌朝、楽しみに外に出てみたら、ない。
元にもどっていた。
誰がもどしただろうか。重かっただろーなー。



ま、そういうわけでキキのアパートにやっとベッドが来たらしい。
めでたし、めでたし。



コロ介は元気に転がっている。カブトムシの遺伝子が
すごい勢いで発現しつつあり、やっとその現実に気がついたらしい。
ドタンバタンと体操中。バレエに復帰は学校が遠くなったので無理か。
気軽に通える大人のクラスで続けるか。いずれバレリーナという姿ではすでにない。
柔道かレスリングか、ご立派な体格の春である。



義父とママあわせて6人のこおろぎ一家は
昨日、コロ介進学祝いの春の晩餐会だった。
いつものようにお義父様のご立派なご挨拶で
始まった。儀式的な食事のあと
80歳未満の4人はススキノへ。
大好きなお店でお茶とワインしてから
もう一軒探検した。



以前、こおろぎはお蕎麦屋さんで
ススキノで50年お店をやっているというママさんに
スカウトされたというのをブログに書いた。
そのお店に行ってみた。



ひゃーっ、すごいお店だった。
ママさんと再会。
すぐに分かってくださり、歓待。
なんてーのかしら、ワンダーランド。
外国人のお客様が多いという。カブトムシとママさんの会話も
実におもしろかった。北海道大学の古い大学者先生のお名前が
ぽんぽんでてくる。すばらしい記憶力とイキイキとした会話。
ママさん、78歳で美しい。彼女を取り上げた新聞記事を見せていただいて
納得。その経歴は華やか。女子医専(現在のS医大)の受験に失敗してからの
水商売。銀座の名店、かつてこおろぎもあこがれたクラブHにも
引き抜かれていたとのこと。
そのママさんがこおろぎを自分の店にと誘ってくれたのだから
すごいでしょ。
カブトムシが、ママさんに
「彼女にどうして声をかけたのですか」と質問したら
「あんなに楽しそうにお蕎麦食べてる人、見たことないのよ」ですって。


美しいから、とか素敵だから、とかじゃなくて、
楽しそうにお蕎麦食べるってどういうとでしょうか。
声をかけてくださったときは
もっとちゃんと褒めていただいたと記憶しているけれど
「一人で食べてる姿が素敵」という表現を繰りかえされた。
「一人上手ってことね」と笑った。


あああ、
なんだかなー。

キキが医学生だと知って、大いに喜ばれ、キキも興味津々。
わが家に新たな世界が広がった。
いくら外人のお客が主流だといっても
カブトムシに
「どこのお国の方ですか」という質問には笑った。
だけどカブトムシの外見はどんどん多国籍化しているのは確か。
これ、ドーユーDNAなのだろうか。不思議。

「奥さまは、主婦業だけにしておくのはもったいないわ」といわれた
カブトムシ、ひどく真顔で
「彼女は主婦業など全くしていません!」だとさ。
こおろぎに直接いえないからって
初対面の方に訴えてどうするの。
でも
そのとおり!



実は大学で教えているといったら仰天していた。
だがしかし、
こおろぎはもしかしたら
ススキノのド真ん中の老舗のお店のカウンターで
時々お酒の肴作る雇われママさんになるかもしれない。
お教室にも新しい展開になるかも!




先日のコロ介の教科書、重さを測ったら14キロ。あれこれ加えたら15キロ以上。
それを一気に持ち上げたり運んだりしたせいか
こおろぎは首と肩が痛くて今日は薬漬け。
それでも治らない。
困ったもんだわ。


コロちゃん、これが青春の重みというものです。
人生の重みというものです。
キキ姐さんがベッドを運んだように
こおろぎかあさんがバス停運んだように
どうしても運びたいモノは運ぶしかないのです。
コロ介はまずは教科書+副教材を運んだわけですが
さて、これから先、どんなモノ運ぶのでしょうか!
乞うご期待!これぞ青春のトキメキなのです!


追申:写真はこおろぎのお友達の家。ホームページ表紙の函館新聞連載をクリックしてください。本日の連載記事にも同じ部屋の写真を載せました。
春の日差しです。