少年よポン酢を抱け

madam-cricket2008-03-01


不動産屋のオニイサンと電話で喧嘩して
無駄なエネルギーを使い、血圧あげてる場合じゃない。


こおろぎの巣の周辺の雪はとんでもない量になっている。


写真は先日やってきた除雪車
すごいでしょ、すごいでしょ。
道に積もった雪を吸い上げて、
トラックに吐き出すのです。
それはもう、恐ろしい情況。
日本は広い。
瀬戸内海にはみかん、蝦夷地にはこの雪。


なにかと効率のわるい時間の使い方をしていて
嫌悪感ばかり。


夕方、どんどん吹雪きがひどくなる中、
お弁当のおかずがないのでスーパーに向う。
何かの罰ゲームのような猛吹雪。
24年前から着てる、分厚いムートンのコートに
傘さして、強風と雪に立ち向かう。
これぞ本当の戦闘だわ。


あれこれみつくろってレジに並んだら
こおろぎの前に小学生の坊や。
4年生かなあ、5年生かなあ・・
ポン酢を2本。
ポイントカードがあるとかないとか、
レジの女性と会話。
小さいお財布からお金を出すのも時間がかる。
魅力的なお菓子もどっさりあったでしょうけれど
彼はポン酢を2本だけ買って、
レジで携帯電話。
「買ったよ」



お母さんに電話したんだわ。



レジ、こおろぎの番。
30円引きのひき肉とか、
今日のお勧めのちりめんとか、
かわいくない品を次々にレジうちながら
レジの女性も笑顔。
こおろぎも笑顔。
こおろぎ、初めてのレジの女性に思わず言った。
「かわいいお客様でしたね」
すると彼女も
「はい、ポン酢でしたね」
「それも2本・・」



彼女はふっと笑った。
こおろぎも笑った。


彼女もこおろぎも
あの坊やの夕飯を想像したのだと思う。

大雪の中、ポン酢がないことに気が着いたお母さん。
きっと単身赴任のお父さんが帰ってくるんだわ。
帯広から車で2時間くらいかかる小さい町に出向している
お父さんが洗濯物もって帰ってくる土曜日、
中学生のお兄ちゃんはポン酢なんか買いに行きたくない。
高校生のお姉ちゃんは
「マジ寒いんですけど・・」と取り合わない。
でもお母さんは小学生の彼には頼まない。
そこで彼は、頼まれないのに
「ボク、行って来るよ」と言って、
小さい緑色のビニールのお財布に600円入れてもらって
元気に走ってきたに決まっている。
寄せ鍋なのだ。
牡蠣も海老も今日は入っている。
どうしてもお母さんはポン酢が欲しかった。
「行ってくれるの?」
おかあさんは白菜を切る手を止めた。
「おつりで好きなもの買っていいよ」と言ったに決まっている。
なのに彼はポン酢を二つ買った。



頭に雪を積もらせて帰ってきた彼が
お母さんに渡した袋にポン酢2本。
「どうして2本かったの?
ポテトチップでも買えばよかったのに」
お母さんは彼の顔を見る。
「予備に買ってきてくれたの?」
「うん」
「そうだね、すぐつかっちゃうものね」




中学生のニイサンとマジ寒い高校生のネエサンが
テレビの前にひっくりかえって
「おまえ、何もお菓子買ってこなかったの?」
「せっかく行ったのに、マジ気イ利かないんですけど!」
と吠える。
彼はそれには答えず、腹ばいになって漫画を開く。
ページをめくる手は冷たくて真っ赤だ。



ピンポーン



あ、とうさんだ!

少年は玄関に走る。
母はエプロンで手をふきながらその後を追う。



少年よ、大志など抱かなくていいのです。
中途半端な大志に人生狂わせた人がどれほどいるでしょうか。
ポン酢です。
ポン酢を2本買った君はきっといい大人になれます。



なんてことをレジで思いながら
目下大きな悩みがあるにもかかわらず
こおろぎはとても幸せな気持ちになって
再び猛吹雪の中を帰ってきたのでした。
めでたしめでたし・・・