華やかな時間


クリスマスパーティーで、総合デザインコースの方がたが作ったテーブル。
準備に時間がとれる有志3人が、何軒もの花屋さんを何度もめぐって、本当に欲しい花と緑を徹底して探した。お花屋さんにお願いして届けてもらう、という買い方ではなかった。絶対に妥協しないでね、というこおろぎの強い指導は、きっとみなさんを苦しめたと思うけれど、今回製作した3名は初舞台。他人任せの花選びはだめ。
花を選ぶところが何より大変。イメージを形にする作業は実にしんどい肉体労働。
立派だった。テーブルクロスの選択はこおろぎ、アドバイスしたけれど、その他の花の色あわせ、あっぱれです。


どうしてもクルミを足元に置きたい・・・という希望に、3人とこおろぎは1週間探し続けた。その結果、胡桃捜索委員会会長に指名されたHさんがついに活けこみの当日、たまたま行ったお蕎麦屋さんの店先で発見。お蕎麦屋さんにどこで買ったかおききして大量の胡桃を手にした。アトリエに駆けつけたHさんの嬉しそうなお顔、
「胡桃ありました!」
それは全く劇的で、みんな感動。
ワイン屋、チーズ屋、食料品屋・・・みんないろんなところを探した。
どこかで見た、どこかにある・・・でも探すとみつからないものだ。
一袋700円のキレイな胡桃はキラキラしていて涙がでそうになった。



なんでもそうだわ、妥協しないのが一番。
ま、こんなもんじゃない?
とか、
もう、これでいい・・・
と、そういうときも確かに必要。
だけど、ここ一番、と言うときは
絶対に妥協してはいけない。

大きな後悔が残る。


そしてたかが胡桃、なかったらなかったでよかった。
だけど、胡桃が欲しかったのだから
時間を惜しまず探す、その姿勢が
必ず将来の「何か」に繋がる。


私生活、思い切り怠けているこおろぎが言うのもなんだけど
「ここ一番」で努力を惜しむ人はダメですね。
その結果、「ないものはない」、それは仕方がない。
そんなわけで今回は、胡桃がない場合のバックアップで
アボカドを用意した。その色彩感覚もイメージ修正計画も
立派だった。


レイアウトするワインの色にも気を配れ、という指令に
連日重いワインを5本持ち歩いたYさん、本当に大変でしたね。
Yさんの色へのこだわりと、イメージの一貫性は、結果的に
重労働を伴った。そこを厭わなかった。立派だった。


Hさん、Yさんといっしょに、忙しい中走り回ったNさんは
テーブルクロスをせっせと縫い、責任を持ってどんな作業も
手をぬかなった。


1つのテーブルを作るのにこんなに荷物が必要かと
3人とも思ったかもしれない。


そうなんです。そんなに荷物が必要なんです。
何度もいいますが、
欲しいものを作るというのはそういうことなんです。
ゴミも小さく切って持ち帰る。それは本当に大変なことだけれど
前後左右に気を配って力を尽くしてこその1つの作品なのです。


人生と同じよね。
楽に手に入る「素敵」などないもの。


裏側や水面下はボロボロでヘトヘト。
でもだからキラキラになれるんじゃないかしら。


この凛とした花を見よ!とこおろぎは思った。
前夜、「をとわ」に運んだとき、すでに萎れた材料もあったし、
深い色のカラーは入れておくことができなかった。
夜通し水切りをし、花材の世話をする手間も
一過性の刹那的ですらある舞台の裏にあった。


ピアノやバレエも同じでしょうね。努力したものが光る。


そして努力の跡を見せては絶対にいけない。


こおろぎはお花屋さんではないので
生徒さんのお花を簡単に手に入れてあげることができない。
だけど、欲しい花を探すことこそ花を学ぶ最後の大仕事。


軽トラック半分くらいの荷物や花を持ちあるいた3人を
こおろぎは誇りに思います。


さて、こおろぎさんちの長女はスペインとモロッコの旅にでかけました。
16日の夜、一人暮らしのアパートから帰ってきたキキ、
まずは「お水、お水!」と水道へ。
なにごとかと思えば
長く留守するから、と水道を止めたという。ま、北国だからそれは必要さ。
だけどそれから片付けやら勉強やらが長時間続いたそうで・・・
???
「で?」
「だからあ!お水飲めないし、ガスも元栓しめたから珈琲いれられないし!」
「全部終わって家出るとき水道とガスとめればいいじゃん!」
「あ、そうか!」


コイツ、アホだわ。やっぱり。


クリスマスパーティーを終え、新聞の取材を終え、論文の準備を始め、
ちょっと一息つきたいこおろぎだったけど
帰宅したアホキキがバタバタと旅の準備を始めた。
翌朝は5時半に家を出るというから、これまた寝坊できず。
3週間の無計画な旅で心配だけど、ま、行ってみな!
かあさんも若い日、花ばさみ1つとエプロンもってロンドンもパリもバンクーバー
ニューヨークもオタワも行った。怪しい怪しい旅人をした。

17日朝5時半、
「ジャー行ってきまーす!」というキキ、
受験生なのに睡眠時間の異常に長いコロ介を起こした。
寝ぼけつつも見送りに起きてきたコロ介、

「おねえちゃん、どこ行くの?」
「まずはスペイン!」
「いつまで?」
「3週間くらい」
「え?じゃあ写真とろうか」
「時間ない!」
「おねえちゃん」
「何?!タクシー来た!」
「おねえちゃん・・」
「何!」
「修学旅行のときとおんなじバックだね・・・」



ドキッ!ドキドキっ!


見ればコロ介のいうとおり。女の子が3週間旅をするというのに布バッグ1つ。
しかも、修学旅行のときよりずっと少ない荷物。
ハードケースは?そんなバッグ、投げられたら破れるし、切られる。
そもそも鍵がついていない。

「キキっ、キキっ!鍵鍵、せめて鍵っ」

と叫ぶと
「盗まれてもいいもんばっかりだからいい!」

アンタのパンツ盗んだ人のほうが気の毒だけど
着るもの無くなるよと言っても、
もう仕方ない。


「おねえちゃん、迷彩柄だから、イスラム圏ではきらわれるかもよ」


ドキッ、ドキドキっ!


数あるジャケットの中から、いかに暖かいとはいえ、何ゆえに迷彩柄のダウン?
ああ、コロ介のいうとおり、怪しい柄。


と言ってももう遅い。
深夜、適当に選んで適当に準備したに違いない。
大人なんだからついている必要もなかったし・・・



「じゃあ、行ってきまーす!」とタクシーは軽やかに出発した。

「キキーッ、保険は?お金は?薬は?・・・
    んもーっ、どうでもいいか、気をつけてねーっ」


と粉雪の舞う早朝、こおろぎはタクシーを見送ったのでした。


心配しても、まあね、しゃーないね。
それより眠い。こおろぎも忙しい。
再び寝床にもぐりこんだのでした。キキ情報、入り次第報告します。