感動


金曜日からシーンとしていたには理由がある。
広島県で飛び回っていた。

直行便は時間が不便。朝5時に起きて
東京で乗り換えて行った。ジンマシン騒ぎは終息していないのに
無謀だとも言われながら、薬のみながら前進。
ふとしたときかゆくなったり赤くなったり。しかたがない。


古い生徒さんと午後、夜レッスン。
それぞれで指導するこちら側が大いに考え、学ばせてもらった。


土曜日は朝から尾道
広島の一期生Nさんのご紹介でこの夏、
尾道の妙宣寺とご縁を得た。
加藤清正ゆかりのお寺。
そこで新教室がスタートさせてはいかがか、というお話があった。

体験授業をさせていたたくことになった27日、尾道は灯り祭り当日。
古いお寺では子供たちの合唱や、しの笛のコンサートがあるという。
ではレッスンの一環で、その場を装飾させていただきましょう、と
いうお話になったのはわずか数日前。
お寺の周辺にある竹を
切ってきていただきさえすればなんでもできる自信があった。


Fさんは椿を集め、Mさんは庭の小菊を集め・・・と集ってくださった
広島教室の一期生のみなさん6名と、かつて広島大学天文学を学んだ
本ページ管理人みのりちゃんが東京から駆けつけてくれて
総勢7名がセーノ!でスタート。
あっというまに竹をを切り、
わずか1時間ほどで写真のステージが完成。
感動の時間だった。

後日、追々詳しく書くことにする。


実は大きな花装飾の仕事はもうしないと思っていた。
かたくなにそう思っていた・・
というより決めていた。
その私が
この夏、古い町の古いお寺を訪ねて、なぜか気持ちが変わった。
灯り祭り、と聞いてすぐにコラボレーションもいいな、と思ったのだ。



だが一度しか行ったことのないお寺。
竹を切っていただいたと聞いても、
どんな竹が何本あるのかわからない。
竹入手の情報も確実になったのは前日。
どんな花を用意したらよいのか、
現地の花屋さんも知らない。
何もないかもしれない。


なのに、なんの心配もしていなかった。
ただワクワクしてでかけた。

材料が何であれ、ステージがどこでどうであれ
絶対に失敗しない自信だけがあった。


とても不思議なことだ。


生徒さんへの信頼感。
場所への信頼感。
それと、私自信への信頼感があった。

私の生徒さんは合同で花を生ける力がある。
作品のサイズを自在に調整するたぐいまれな力がある。
ともに作品に臨む仲間の動きをみながら 
花と向き合う力がある。
私が最も力を入れてきた「花合わせ」の手法の結果だと思う。


今回集った7名は初顔合わせの方もあるし、数年ぶりという方もいらした。
それでも、あうんの呼吸で
写真の作品が竹を組み初めて1時間ほどで完成した。
これは奇跡に近く、驚異的であり、天才的なことなのだ。
作品の大きさを見れば分かる。
誰一人迷うことなく、なんの図面もないのに手が動いて
しかも完成度が高い。これは教師として泣きたくなるほどの
感動であった。
しかも短時間。そばで見ていた誰もが言葉をなくし、
「見たことのない光景」にため息をついていた。



プロの照明を得て
花たちは輝き、祭りに集まった街の方がたに
大きな拍手をいただいた。
主催の方がたの心からのお礼の言葉もいただいた。


生徒さんが木々を手に、高さ2メートルを越える作品に
黙々と迷わず向かう姿に
こおろぎは胸が一杯になった。


これまでの方向は間違っていなかった。
私は展覧会の作品製作や、パターン化した花には興味がない。
人の集う空間に生きる花こそ理想。
小さな食卓であれ、大きなステージであれ、人を生かす花でなければならない。活ける人間の個性より、
花を背にする人が生きる花でなければならない。
その理想が形になった。


すべて即興である。
図面もなく、打ち合わせもなく、
いきなりの空間と材料だった。

この感動を大事にしたい。


体調不良やらなにやらでアメリカ行きを断念した10月だったが
この2日間は何にも替えがたい感動の2日間だった。


そして日曜日はみのりちゃんと東京へもどり、
午後はなんと羽田のホテルでレッスン。
なかなか平日のレッスンができないお仕事を持っている若い生徒さん
の集中レッスンにトライ。
札幌への乗り継ぎ時間を延ばすことで移動中の羽田でレッスンというのが
可能になった。
これがまた私には嬉しい時間だった。


体調はまあまあ。まだまだドキドキ状態だけど
なんとか大丈夫。
さ、新しい風が吹いてきた。


今回の妙宣寺をご覧になった方から
来年の瀬戸内海のある街のイベントと
それとは別の大きなイベントの装飾のご相談、ご依頼をいただいた。
時間やその他条件があえばお引き受けしたい。
今回のような成功は好条件の重なりで可能になったことなので
簡単にお引き受けすることはできないが
3時間ほどのコンサートの間だけ装飾してすぐ撤去したのに、
そこまでご評価いただいたことに
感謝したい。


生徒さんの力が評価されたということだ。
何にも増して嬉しい。
歩いてきてよかったと心から思う。
生徒さんに感謝し、めぐり合った機会に感謝したい。


こおろぎは、花装飾人としてひっそり歩いた日を突然思い出した。
長いトンネルを抜けたら、やぱりこおろぎはこおろぎだった。