こおろぎの季節

madam-cricket2006-09-02


函館短大での4日間の集中講義が終わった。この短大と北海道文教大学でフードコーディネート論を教えて4年。実に全くよろしくない教書が指定されていて、文句いいながら訂正しながら教えてきたが、こちらも学び続け、毎年私の授業は進化を続けている。偉いわ、偉いわ、私。何十年も同じノートを読み続ける先生もいるというのにね。集中講義なので朝9時から17時近くまで。2単位分なので大変。でもパソコン駆使して、レポート書いてもらいながら、おしゃべりの一つもできないほど大忙しの授業を展開した。彼らは12月、フードスペシャリストの試験を受ける。その対策もしなくてはならない。授業の最後、私はずいぶんと力をこめてしまったのかもしれない。学ぶということがどれほど素敵か、食に関する仕事がいかに幅が広いか、どれほど日常の暮らしの中に「学ぶこと」があふれているか、観察するに値するものがあふれているか・・・、ナドナド、うるさいおばさんでした・・。すると大拍手。涙ぐんでいる学生もいた。どうしたこおろぎ・・・。
ヘトヘトのこおろぎをねぎらってくれているのか、こおろぎの話の何かを評価してくれたのか、80名の学生がちゃんとこっちを向いている。先生、また来てね、と誰かが言い、寂しいなあと別の誰かが言った。泣きそうになって廊下に出たら社会人入学の私と同年代かと思われる学生が追いかけてきた。「この4日間で、たくさんの勇気と元気をもらいました。頑張った甲斐がありました。」と涙を浮かべていた。かつて病気をし、今あらためて栄養学を学びにきたという。短大なので授業がつまっていて大変らしい。たぶん授業の中で私は口がすべり、前の夫がどれほど食に関心がなかったか、別れた理由の一つは彼の食べ方だったかもね、なんてことまでしゃべったかもしれない。とんでもない先生だったのに・・・。空港に急がなければならなかったが、講師室にも男の子が一人きた。「先生、気いつけてね」と彼なりの見送りだった。玄関にも学生。なんだか青春ドラマだわ・・・。去年の集中講義のあとエコール・ド・フルールの20周年記念パーティーがあって一息ついたあと、義父入院。私の胃にも潰瘍がどっさり痕跡を残していた。辛い冬と春、そしてあわただしい夏だった。でも頑張ってよかったなあ・・・。教え方は間違っていない。きっと私のやり方は間違っていない・・・。手を振りながら、そんな勇気を与えてくれた学生たちに心から感謝した。


札幌の家にはケンケンが不満そうに待っていた。そこに次女帰宅。22日に成田で見送ってから何日ぶりか。帰りは一人で自宅までもどってきた14歳。偉い!でも見ると真っ黒。もともと国籍不明の顔なのに、そんなに焼けたらアボリジニ。でも顔が一回り小さく見える。よかったじゃないの。長女は試験だか再試だかで真っ青。それでも気分転換に、過日ケンケンの誕生日に来てくれた立川圭吾クンの舞台を観にいくようにチケットを手配していた。だが気の弱い医大生は全員猛勉強中で誰も演劇などいっしょに行ってくれないという。するとアボリジニが自分がケンケンを見てるから二人で行けと言ってくれた。アボちゃん、大人にになったわね、可愛い子には旅させてよかったわ。それでも勉強が気になる長女に、この2時間勉強しなくたって結果は同じだと説得して教育文化会館へ直行。おもいがけず私も立川クンの舞台を観ることができた。いやあ驚いたわびっくりしたわ感動したわ興奮したわ。立川クンはちゃんと自分の劇団を持っているが札幌の劇団SKグループに今回掛け持ち参加。ほぼ主役。三角山放送局でごいっしょのヤワなイメージの圭吾クンとは別人。そして挿入歌を歌うデュオがすごい。長女はさっそくCDを買ってきた。SE-NOという兄弟。次回詳しく書く。忙しい時間を割いただけの結果があった。


さてこおろぎ、今はアボちゃんの国語の教科書を読んで打ち震えている。テーブルに広げてあった教科書をうっかり読んでしまった。夏目漱石は天才です。実は一度も天才だと思ったことはありませんでした。文豪と言われるのは、当時、小説を書く人が少なかったからだと言ってはばからないフトドキモノのこおろぎでした。中学2年の教科書に「永日小品」より3篇のっている。初めて読んだ。まず「蛇」でその表現に度肝を抜かれた。そして「猫の墓」という小品に涙を禁じえず・・・。何がどういいか・・・。これもまた後日。近くこおろぎの本棚・・のようなページが増える予定ョ。そして同じ教科書に、山川方夫の「夏の葬列」。これも初めて読んだ。内容もそうだが、自分自身を「彼」「おれ」「ぼく」と使い分ける巧妙な表現。短い文章から音楽が聞こえるのだ。漱石の短編もそうだ。良い文章は音楽が聞こえる。現代作家のように具体的にミュージシャンの名前や曲名を挙げなくても音楽や「音」を聞かせる術をもっているのが文豪である。試験勉強に疲れた長女が覗き込んで自分も中2のときそこで感動したとかしないとか。コーヒー飲みながらしばし文学談義。ま、アボちゃんにはこの内容はまだ無理かも。たぶん私もこのトシなので打ち震えるのだろう。本を読もう。ちゃんと本を読もう・・・。写真は半年振りに帰った函館のマンションからの眺め。遠く函館山。新しくなった五稜郭タワーも見える。秋空。ケンケンの横顔は相変わらず美しい。気高い横顔には豹柄がよく似合う。