ノスタルジックな午後

土曜日のランチ


 昨日のお昼、マキコとランチ。小さい写真がソレ。我家からワンブロックのところにある民家を改造したカフェ。健康第一のランチが自慢。デッキの席が空いていたのでバレエのレッスン前のマキコと大急ぎのランチ。私のDNAを受け継いだはずなのに小さい虫にも大声をあげる。ムシなど怖がるでない・・・と言う私、6本足にはめっぽう強いけれど8本足の蜘蛛には情けないほどの悲鳴をあげる。
こおろぎ殺すにゃ刃物は要らぬ、蜘蛛の2匹もあればいい・・・。


一枚のはがきが来た。古い友人であり、先日まで仕事でお世話になっていたN氏からの挨拶状。
「大半の背広とネクタイを思い切って捨てました。」と始まり、
「夏の間は札幌でのんびりすごし、秋には東京に戻ります。どうぞお健やかにお暮らしください。」と結んであった。
しばし呆然とした。胸がいっぱいになった。彼は42年も北海道で仕事をしたのだ。最後は某社の社長まで勤めた。そうか、彼のきれいな日本語は東京の人だったからか・・。そんなことも知らなかった。彼の筆は強かった。頭のキレも秀逸だった。
20年近く前になるだろうか、あるイベントのあと私は彼と彼の強烈に楽しい同僚となぜか道北の町で朝まで大酒を飲んだことがある。大雪で閉じ込められ、札幌に帰れなくなったからだったと思う。二人の男達は私より一回り以上年上だったが学生時代にもどったように私たちはハメをはずして田舎町の小さな居酒屋で大暴れしたように思う。
60過ぎて3人とも家族に捨てられて孤独だったら3人で暮らそうな・・・とひとりが言い、3人でかたく握手したりもした。以来どこかで出会うとお互いに苦笑して軽く手を挙げて挨拶する関係が続いてきた。3年ほど前、また仕事場で再会し、何度か彼の社長室を訪ねたりもした。
すでに60才をすぎたが彼も彼の同僚も家族に捨てられず孤独でもない。だが私はあの居酒屋騒ぎのあと家族を亡くしたり当時の配偶者と別れたり、地獄の苦しみも体験しながら私にふさわしいあらたなパートナーを得たり、広島に住んだり関西に飛んだりと、にぎやかな事件を起こし続けてきた。「せわしい人だなあ」とN氏はいつも私を見かけると静かに言ったものだ。その彼がいなくなる。もっともっと彼から学ぶことがあったと思う。ずっと札幌にいると思っていた。味気ない印字の挨拶状の下に、癖のある字が踊っていた。
「益々お元気で 美しくご活躍ください」

冗談ではない。益々お元気になるはずがない。美しく活躍したこともない。
あるとしたらN氏のような方がたに上手におだてられて勘違いしながら歩いたことがある程度である。秋まで、と期限が限られた時間、忙しい彼をなんとか捕まえてこれまでの
お礼を言おう。そしておだててくれる人がいなくなったら、褒めてくれる人がいなくなったら歩けなくなる私をどうしてくれるのかと問い詰めようと思う。
これからどんどんこんな別れが増えるのかと思うと切なくてならない。



カブトムシとていつか定年を迎えるだろう。最終講義は一番前の席で聞こうと思う。娘たちのステージのときのようにブラボーコールで送ってやろう。でっかい花束をかかえて行こう・・・と思っただけで泣けてくるわ・・・。



明日月曜日は食卓美学のレッスン。試作と準備で忙しい中、マキコの英検の面接。北大だという。懐かしい構内をマキコを連れて久しぶりに訪ねた。
全く準備していないマキコ、大勢の受験生を見て突然びびる。
「落ち着きなさい。面接は笑顔が勝負。歩き方と姿勢は満点なんだからあとはまず笑顔。問題が分からなきゃこれまた優雅にほほえんで 
アイムソーリー アイドントノー でOk。」と母は立派なアドバイス
こおろぎはこうやって人生を渡ってきた。面接を終えたマキコ、試験官の先生が爆笑してた・・・ってなんだそれ?何を言ったの?


写真は北大の構内。緑が美しい。広い構内のアチコチで学生たちが焼肉したり遊んだりしている。もう30年も前になるだろうか、こおろぎもその中にいた。少しも楽しくなく、苦しいだけの日々だった。大学院を終えて夢あふれて研究を続けるべく門をたたいた若いこおろぎだったけれど、当時の北大は学外からの学生に冷たかった。研究室を抜け出しては写真の小川のほとりで本を読んで時間をすごした。いつまでたってもその頃の痛みが癒えない。40歳を過ぎて北大で取りそこなった博士号を関西の女子大でとってみたが、何をどうやってもその頃の痛みだけが消えない。なぜだろうか。
2年前は受験生の長女と雪の構内を何度も歩いた。そのときもまた心が痛くてならなかった。だが年月は確実に流れている。癒えない痛みの理由を考えている暇はない。



大半の背広とネクタイを捨てたN氏。カッコいい再スタートに乾杯しよう。
自由業の私には定年がない。一生ハイヒール、一生ミニスカート。捨てるどころか増える一方。せっせと歩くしかない。
・・・
と考えなら夜はお友達ファミリーと久しぶりに会えるのを楽しみにしていたのに
バラや材料の都合で明日のレッスン内容を変更することにした。大慌ての夜になってしまった。夜9時すぎてからススキののスーパーマーケットで頭を抱えるこおろぎ。
現在10時18分。テレビで名古屋の大金持ちのマダムが50億円という指輪を全部の指にはめて笑顔。こおろぎとなんたる違い。彼女は14歳のときお母様とリヤカーで夜逃げしたところからスタートしたとのこと。こおろぎも小さい長女とタクシーで夜逃げしたところからスタートしたのだけれど、あまりの違い。やっぱり根性とセンスと頭の違いなんだわ・・・。こおろぎの本日のアクセサリーは抽選で当たった模造ダイヤのペンダント。みなさん勝手に本物だと思っていらっしゃるけど立派なガラス。美しいガラスは美しいわけです・・・。今夜は何時までかかるかしら・・・明日の準備。ではまた明日・・・・