ばら色の苦難の日々

 どうして長女はこんなにだらしがないのかと考えたところ、これはすべて私のせいだと分かった。彼女は大学から深夜もどったらそのままソファーで寝る。自分の部屋があるのに3階の狭いファミリールームのソファーにコンタクトもはずさず化粧もとらず寝込む。布団に寝ろというと、必ずバイトの塾の準備、部活の仕事、試験の準備などなど山ほどの仕事を抱えていて寝ていられないという。しかしソファーで寝る。毎日そのドラ娘がテレビと電気つけっぱなしで寝るのを阻止し、少しでも休ませるのに苦労。ひどいストレス。最後は真夜中の怒鳴りあいになる。彼女は24時間にこなしきれないスケジュールを詰め込んで暮らしている。
 なぜだろうとずっと考えていた先日、寝ぼけた彼女が「もったいないじゃないの!」と言った一言で気がついた。私を見て育ったので仕方がないのだ。彼女は着替えない。時にはジャケットを着たまま、スカートをはいたまま布団に入ることもある。朦朧としているのだ。さすがに私は寝るときは着替えるけど、帰宅したらそのままパソコンあけたり、キッチンに立つのでカブトムシとケッコンしたとき「どうして着替えないの?」と何度も聞かれた。答えは一つ。「もったいない」のである。着替える時間も気持ちももったいない。かなり病的。したがって部屋を片付けるより自分の仕事。なにもかも長女は私とおなじ。ひどい生活。これはまずい。で、彼女が覚醒している朝、相談した。24時間を30時間に使うというのはかなり危険。するとベッド、朝食、バスタイムの3つのBを満たすことが豊かさの指針なのだと長女も言う。彼女もうすうすこの母と娘の生活態度がまずいことに気づいていたらしい。次女は立派。帰宅すると自分の部屋で着替えるし、時間がきたらシャワー、きまった時間にベッドに入る。さすがカブトの娘。でも私と長女はシャワーさえ時間がもったいない。で、彼女と決めた。「自己変革、生活改善」である。いつまで続くかわからないけれどとりあえず昨日は二人で気合をいれて11時台にシャワー。それも譲り合って、できるだけ遅くしたいのがわたしたち。お互いに掛け声かけて寝床で寝た。普通のことが出来ない私たち。帰宅したら着替える、時間が来たらお風呂に入る。こんなことができない。情けないこおろぎ母子でした。

 日曜日、朝はやくから電話。フランスからカブトムシ。おもしろくないわ。なにがフランスよね。見るとケンケンが立派なウンチとおしっこ。黄色い日の丸。カブトの電話は「ランコムのマスカラ買ってきて!」と言って冷たく切る。

 今日はマキコの発表会。朝からでかける彼女にお弁当作りながらあれこれあれこれ。私とママとミキコは開演に間に合わせてでかける。独唱も、クラリネットも、ヴァイオリンもあるような、楽しいコンサートの演出だった。マキコは最後から2番目。先生と連弾。カルメン。いやあ上出来。あちこちで餓鬼どもが騒ぎ、飲食禁止もわからないオジサンオバサンがジュース飲んでるようなお気軽な会場だったけど水を打った静けさ。「上手ねえ・・」とささやく声。ウふふ、「あれ、うちの子・・」と言いたいのを我慢。「大きいわねえ、中2だって?」との声も聞こえる。「父親似なんです・・・」といいたいのも我慢。弾き終って大拍手。ブラボーの連呼。もちろんブラボーと叫んだのはこの私。となりで長女が小さくなってたわ。

 帰宅したら大変、ネックレスがはずれない。珍しく気に入って買った首にぴったりしたデッカイ白いネックレス。首にあまり余裕がない。なにかの加減で私が変なところに留めたらしく、マキコもお手上げ。ミキコに頼むと笑い転げて真剣にならならい。不細工シスターズは「一生してたらどお?」とヒーヒー笑う。実は重い。一生しているわけにはいかない。300円でどうだといったら二人とも挑戦。でもマキコはすぐにあきらめた。1円でも欲しい長女は立派。500円なら挑戦しつづけるという。それでも母の顔を見たらできないと挫折。1000円にあげたとたん取れた。その間かなりの時間。本当に切ろうかと思った。情けない。さらに今日はもうひとつ事件が起こった。夕方タクシーで買い物に出たとき、タクシーに乗ったとたん、バッグの金属のトッテから手が出なくなった。小さいもち手ではあるけれど抜けないってことはなかった。手がむくんだのかしら。時計が大きいのも悪い。なにがなんだかわからないけど抜けない。すすきのまで行く間中、悪戦苦闘。バッグミラーみながら運転手さんが笑いをこらえているのがわかる。悔しいから平然と苦闘。降りる直前、時計をはずしてセーフ。悔しい。降りるとき運転手さんが「大変でしたね」だって。

 でも今日日曜日、NHK趣味の園芸で東京教室のりなちゃん豪邸が出た。いやあいろんな豪邸があるけどりなちゃんちはすごい。家の中で迷子になる。ロッククライミングもできる。あらゆる洋食器がフルセットである。それよりなにより、ご主人が美しい。建築家で美しい。頭もよくてやさしくて美しい。カブトムシ、よく聞きなさい。この建築家は細くて美しい。そしてりなちゃんが美しすぎる。画面がNHKではなくなったわね・・・。そして二人のお嬢ちゃまが美しい。失神しそうに素敵な家族。かねがねうすうす私とカブトはかなりまずいカップルだと思っていたが、人前に出ていい人間と悪い人間がいる。いまさらエイジング対策でもないわ・・・。りなちゃんに乾杯!

 今岩手のバラ園からバラ300本届いた。明日のレッスンに使う。あまりの香りに手がぶれて写真がゆれてますけどこんなバラを明日は使います。一級品ではもちろんありませんけど、レッスンには充分。

 コンサートから戻った私たち家族はやっぱりモーツアルトもいいわねなどといいながら、ジャズの楽譜を買ってきたりして、来年は私も長女も出してもらおうかとまで音楽モードだったのだけど、タクシー降りたらケンケン声。町内に響き渡ってました。家に駆け込んだら、またウンチと黄色い日の丸。長女は床、次女はケンケンのシャワー、私はお洗濯。文化も音楽もあったもんじゃないわ・・・。りなちゃんの平和な美しい日々とはあまりの違い。でも負けないわ、頑張るわ・・・。ばら色の日々は作らないとね、少しずつ。長女ミキコとの自己改革、がんばります・・・。