こおろぎの挑戦

 足し算もままならなかった二女が有機物だの無機物だのを学ぶようになった。子供の教科書など見たことがなかったのだけれど、理科が不得意だというのであわてて見せてもらった。何を隠そう、こおろぎは中学校理科1級の教員免許を持っている。高校の理科免許もある。だが私は中学高校を通して理科は大嫌いだった。理科が楽しいなどと誰も教えてくれなかった。もちろん成績も悪かった。それが北大の研究生時代、アルバイトで高校で教え始めて開眼。理科はおもしろい。なんだかすっきりしていておもしろい領域なのだ。好きになるか嫌いになるかは紙一重。教え方次第。忙しいのに思わず身を乗り出して1時間もつまり60分も生まれて初めて二女の勉強を見た。さて結果はいかに…。

 義父の入院には色々考えさせられる。このホームページでも見ることができる函館新聞の連載「暮らしのパレット」にも今週書いたのだけれど、なぜ病人に対して看護士さんはあんなにくだけた言葉を使うのだろうか。こちらが「です」「ます」で話しているのに、「〜だよね」「〜かい?」という若い看護士さんが多くて驚く。医学を学びはじめた長女は「こんな対応はだめ!」と憤慨。これからの医療ではこの部分(っていっても難しいかしら)が問題なんだと力説する。医療従事者と患者って弱者と強者ではないはずだけれど、老人相手の場合、どうしてもまるで子供に話すような会話になる。不快である。義父は生粋の江戸っ子。凛とした古き日本語しか使えない。その義父に「もういいかい?」とか「いたくない?」「あっ、そっ」という応対はないでしょう。もっとも堅苦しい会話では本音が聴けない、ということがあるのかもしれないけれど、とにかく高齢者には敬意を表すべきである。

 研修で老人施設を訪ねた長女はその施設の装飾が保育園と同じだったといって涙ぐんで情けながった。お誕生会とか、季節の行事とか、まるで子供だまし。大の大人を対象にしているのにおかしいという。私も全く同感。認知症で子供にもどったような人も確かにいる。だが、そうではない人もいる。無礼な応対は断じて許したくない。もし母が入院、入所したところに、ティッシュペーパーの赤白の花が飾ってあったり、色画用紙のお花や動物が壁にはってあったら私は母のために泣くだろう。立派に人生を歩き、よいものを沢山知っている母の暮らしを守りたいと思う。義父に対しても同じだ。知的で理性的で、世の中の最高を見てきた父がひとたびベッドに横になったとたんに、とても弱く見えるのは周囲のせいだと思うのだ。長女はその老人施設訪問後、老人医療を学ぶ決意をしたという。

 さあて、こおろぎもインフルエンザの予防接種しなくちゃ…と思って気が重い。
 昨シーズン、しっかり予防接種したのに型違いのインフルエンザでこおろぎはひどい目にあった。そして今話題のタミフルをどっさりの飲んで救われた。後遺症はなかった・・と思うのだけれど、最近、それ以来私の奇行はいっそう目立つようになったと家族はいう。毒と薬は紙一重。それを知っておかなければならないということよね。

 時間がないはずのこおろぎがとうとうバレエに挑戦する日がきた。デザイナーの花井幸子さんがどんなに多忙でも日舞のお稽古を休まないというお話を聞いた。レッスンの時間が限られているので毎週というわけにはいかないが、こおろぎもきっと続けるわ〜。管理人みのりちゃんの従姉妹のマドモアゼルマロン(とでも呼びましょう!)がチャコット渋谷店の店長。彼女がコーディネートしてくれたレッスン着はこおろぎにぴったり。どれもこれも似合うのよこれが。30数年前、こおろぎは旭川東高校の体操部にいた。新体操という名前がつく前のレベルの体操をほんの少しやった。だがそれだけである。以来あらゆる運動と無縁だった。そのこおろぎがバレエ協会の会長先生のお教室に紛れ込んでしまった。マダムたちが上手い!大人のクラスでこんなにレベルが高いなんてことがあってよいものか。二女たちのクラスと変わらない。跳ぶは回るわ、驚いたわ。若い日、社交ダンスを習いに行って、ススキノのホステス明美ちゃんが難なく覚えるステップをとうとう覚えられずに辞めた苦い経験を思い出した。こおろぎは理科か数学のように覚えようとするので踊れなかったのだ。また同じかもしれない。でもなあ…雪だるま・・いや、ハンプティダンプティのようにふくよかな、姫だるまのように…いや里芋のようにかわいらしいおばさまたちが長くもないおみ足を伸ばして跳ぶ。回る。ああどうしましょ。でもやってみるわ。里芋…いや温泉卵にはまけられないわ。美の原点はクラシックにあり。花も料理も踊りも同じ。形から入るこおろぎの美しいレオタード姿を御想像ください!蝦夷地の草刈タミヨ、北都の森下ヨウコ…を目指すわ。遅れてきた大物プリマの前途に乾杯!

 追伸 跳びも回りもしなかったのにすっかり体が痛いこおろぎです。手足背骨バラバラになりそうです…。ウフッ もしかしたら背伸びるのかも…。