美しい人


ちょっとくたびれたまま一週間がすぎてしまった。
これは暇だからだ。具合が悪いからのんびりしてたのだけど、
暇だから具合がわるいような気がしたに違いない。
この暇、というのは本当に暇なのではなく、
やることはどっさりあるけど、締め切りが厳密に迫っていない、
という程度なのだが、
これは最も体に悪い。
攻められればなんでも出来るこおろぎなので
先生、むりなさらずに・・・といわれれば
ただの怠け者になってしまう。


とにかくまた日曜日になった。


カブトムシが帰ってきて、キキの運転練習。初めてこおろぎも後部座席に
乗った。上手じゃないの、いいぞいいぞ!
カブトムシはうるさいけど、ま、それがパパっていうもんよ・・・
それにしても、ちょっと車が大きすぎたわねえ・・・
いつものようにこおろぎ直感で選んだ車は
ちいちゃいキキにはデッかすぎた。
運転席を高くして、シートを前に進めて背もたれもキキに合わせたときは
もう、あたしゃ、笑い転げたわ。
だって運転席の後の広大な空間。だれか正座できるほど。
キキちゃん、ハンドルと近っ!背中直角!いやあ、かわいいっていうか
なんつーか、上手に操って運転上手になりなさい・・・



敬老の日のためにおじいちゃまにお酒買って無事自宅にもどって車庫へ。
そのとたん、頭から入った車庫でガッツーン!


車庫の外で指示していたカブトの悲鳴。キキン太はキョトンとしている。
度胸の据わってるこおろぎは瞬間キキに怪我がないこと確認して安心。
要するに車庫に放置しているゴミ箱などに激突。瞬間、車庫のコンクリートの壁にぶつかったかと思うほどの衝撃だったけど、こんなもんなんだわね・・・。
とはいえ、車の前に目立つ傷ひとつ。


怒り狂うカブトムシに
「間違ってアクセル踏んだの・・」とキキ。


あんた、やっぱり外科系はやめなよ。
どなたにもご迷惑かからない、そうねえ・・・
受付とか、包帯巻くとか、そういうお医者さんになりなさいよ・・。



だれも怪我せず、大きな大きなお勉強をしたキキでした。


写真は今日の前菜。秋だわねえ・・・


今日の日曜美術館、堀文子さんだった。
朝も夜の再放送も最後の5分しか見られなかったが、
彼女を美しい女性という。
88歳には見えない。
彼女の「華やかな終焉」について、彼女自身が語る文章がすばらしかった。
私は幾度、生物学の専門家がなぜ花か、なぜ食卓か、と
問われ続けてきたが、生きるものの姿の 「凄さ」にこそ
すべての興味があるからで、対象がなんであれ問題ではないのだ。
そのことを上手に伝えることは実に難しいと思ってきた。
最近は、花を扱う作業は、花の最期、花の死を看取る作業なのだ、と
いう言い方をするようにしている。
そうしないとモノとして植物を遊びすぎるからだ。
切られた花はたしかに作者の材料だが、
花は生きてる。その最期を手にすることの畏れを知って
対峙すると、どれほどこちらが清くなれるか、
そのことがわかってきた。
食の場面も同じなのだ。
飾りたてることへの言葉にならない疑問が溢れることがある。
それは「イキモノ不在」のときである。
食べる側が生きているように、
食べられるものもすべて生きていたのだ。
すごいのよねえ・・・「食べる」ということは。
そんなことを考える機会が増えていたので
「華やかな終焉」の木の葉一枚ずつに
堀さんがこめる思い、つまり、
神に、もう生きなくてよい、と告げられた木の葉が
燃え上がって木からはなれる、その潔い美しさ、
それを高く評価する鋭い眼、
これぞ私が探していた一つの答えであり
理想の姿勢だと思った。



そして堀さんご自身の美しさに目を奪われた。


車をぶつけたときは幼稚園児のように泣いてた
キキン太は、敬老の会食で久しぶりにコロ介に会い、
家族のアホみたいな会話に笑い転げてすっかり回復。
「ねえ、この女性、いくつに見える?」と聞いたら
「70歳くらい?」と答えた。
「88だって。きれいねえ・・本来美人だからね」というと、
「年をとるとね、若い時きれいだったかどうか差がどっさりでるのよ!」
だって。

「目指せ堀文子なんだけど・・」というと
「だからさ、きれいかきれいじゃないかっていうのは、
年をとるとその差がはっきりするの。わかる?」
「わからない」
「つまり、若い時きれいじゃないと、年取ってからきれいなおばあさんにはならないの。おかーまはもう若くないわけで、もう若くない段階にきて、この状態なんだから、88歳になって堀文子さんにはなれないの。堀さんはおかーまの年には今の何百倍もきれいだったから88歳でこの美しさなの!いい?通販でどんな化粧品をこっそり買って、ひそかに使っても堀さんにはなれないのよね。わかる?無理!」


そりゃそうだ。そりゃそうだよ。
でも・・
車ぶつけてカブトに叱られてたとき、なだめ励ました母に、
よくそんな口がきけたもんだわ。

おじいちゃまが孫娘たちにお小遣いを渡したいけど、今回はいくらぐらいが適当かと電話で相談してくれたときだって
一人暮らししていることも内緒だし、居酒屋でバイトしていることも
言えないから、いくつもいくつも善良なウソを重ねて
いかにキキが貧乏か強調して
お小遣いの金額を5倍に交渉してやったこの母こおろぎの犯罪的な深い愛を、
キキ、お前はわからないのかい?


喉元すぎたら全部わすれるのが子供ってもんかも。
私もそうやってママとパパを踏んづけて生きてきた。
申し訳ありませんでした・・・輪廻転生、今ひどい目にあってます。



華やかな終焉、こおろぎは何か大きな自信を取り戻しました。
20数年前、大きな夢を持って教室を開いた時のあの時によく似た気持ち、
それを自信というのかもしれません。それを深い引き出しの中に
探しあてた気がします。
他のお教室とは、ここが違うのです。
生きている、そのことを学ぶお教室だということ、
確認しながら歩いていこうとおもいます。



イエイっ!かっこいーっ。
ザマーミロ、キキン太!堀文子さんの美しさを、こおろぎは目指します。
なんとか努力してみます。あのおおらかな微笑み、
あと30年以上あります。こおろぎ、修業に励みます。


キキ、車の傷、弁償しろよ!
大事に使ってたファンデーションこっそり使うな!
ヴィヴィアンウエストウッドのサンダルとジルスチュアートのミュール、
すぐ返せ!二度と洗顔クリーム使うな!おせん泣かすな馬肥やせ!
はじめちょろちょろ中ぱっぱ!そうだ、この間貸したストッキングも買って返せ!