こおろぎ痴漢に遭遇!

 台風の隙間を抜けて広島に行った。やっぱり広島はいい。街も人もいい。夜は必ず行くお好みやさんで食事。そのあとである。いつもはタクシーでホテルに帰るのだけれどお友達が松島奈々子はここから一人で歩いて駅に行ったんですってよ・・・と言う。その一言に燃えて彼女と別れてから一人で歩きはじめたのが間違い。猛烈な方向音痴。突然頭の真上から「おねえさん今忙しいですか」という声をきいた時は真っ暗な裏通り。イイトシをしたジイサンである。「ヒマじゃありません」ととっさに答えたものの仰天。「おひまだったら・・・」とますます接近。デッカイオヤジである。大慌てて夏虫のように街灯めがけて突進。私、足は猛烈に速い。医大は到底無理だから体育大学の舞踏コースに入って陸上でもやったらと高校時代の体操部の先生にしつこく勧められたほど。ダッシュしましたわ久しぶりに。するとオッサンもついてくる。見れば交番。所はE音大前。信号無視して交番の前にたっていたおまわりさんに「変なオジサンいます!」と報告したら、シャコに似た若いおまわりさんの目はあきらかに「あんたが変なオバサンでしょ」と語っていました。緑のスカートに黒のセーター、地引網みたいなストールに銀のサンダル、走り方は往年のジョイナー。しかも信号無視。「信号は守ってください」と叱られただけ。でも指差した方向にまださっきのオッサンがいたのであの人ですといったのに、へえ〜という表情をしただけ。情けない。本当に心臓が3倍に肥大するほど怖かったのに。回りにだれもいない夜道というのがあるものだ。大都会のほんの1本裏でもである。こおろぎはかつて正式な、正統派の痴漢にあったことはないが、かつて広島に住んでいた時やっぱりイイトシしたオジサンに背後から追跡されて「お時間があったらぜひお食事でも」と御丁寧なお誘いをしつこくうけたことがある。これって痴漢モドキ、ナンパ以前。問題は私がすっかり年をとってからであり、おっさんたちが大変よい身なりで紳士的であること。これはいったいなんでしょうか。こうして声をかけてついてくるオバサンがいるから声をかけるわけでしょう?どこにでも遊ぶところのある時代、そのへん歩いてるオバサンに声かける理由はなんでしょ。デブ専門、ヤセ専門に好む方があるように、歩いてるオバサン専門家がいるのでしょうね。そしてついていくオバサンもいるのでしょうね。ああ人間は不思議・・・。いやただの動物である。ライオンも虎もそうやって雌をさがしているわけですものね・・・。

 それにしても怖かった。以前長女が家の前でだれかにお尻触られて警察騒ぎをしたとき、お尻触られたくらいで騒ぐな、勲章だと思えと冷たくしたことを反省。ごめんなさい。イイトシをしたこおろぎが2度、イイトシをしたおっさんに声をかけられた時の服装は・・・といえば、今回は地引網だったが、前回は紫の上下だったと記憶している。緑だの紫だのと言えばやっぱりカタギの御婦人の着る色ではないかもしれない。そして私はもうそろそろやめなさいと家族に注意されているのに未だにスカート。丈は47㎝。ま、身長が170㎝なら短か過ぎるかもしれないけれどこおろぎは所詮こおろぎ。膝上程度なのだが、それでもこの年齢では犯罪的な醜態かもしれない。今どきミニはいてるのは吉村真理かうつみみどりくらいかも。でも2回とも洋服の素材はシルクであった。それもイタリア製のニットである。シルクの光沢が老齢雄を引き寄せたか、いや材料の蚕蛾のフェロモンか・・・、昆虫学者としてはつい考えてしまう課題。

 おっさん騒ぎの翌日広島のレッスン。今回は神社の境内の素晴らしいお部屋。春からスタートした総合デザインコースの面々の実力躍進めざましいもの。大満足。ぎゅうぎゅういろんなことを積め込んで申し訳ないクラスなのだが、学ぶということはそういうことだ。時間をかけてゆっくりやりたい・・・という方のお相手は不得意である。昔予備校で教えていた経験が大きい。時間制限のあるなかで人間は力がでるし、集中力も出る。デザインも同じである。広島勢は強い。そしてその夜東京へ。品川の雑踏が好き。翌日10日は白金台のレストラン。今回初めてご参加の方が3名。公に募集しない教室なので御紹介いただいた素敵な3名のご参加だった。素敵な人のお友達やご家族はみんな素敵である。初対面なのに優しい空気の中でレッスンができた。本当に幸せな時間だった。今回は広島のノリナさんというお花屋さんのお花を大きな函につめて持参した。ノリナさんのお花は色と組み合わせが抜群である。全国屈指だと思う。小さいこおろぎが大きな花の函をANAと京急で運ぶ姿は結構目立ったかも。毎回異様な荷物なのだがそれでもよい花を手に入れる安心感には代えがたい。

 痴漢にあったと夕べ家にもどって家族に言ったら、「勘違い勘違い」と一笑に伏された。だが二女だけが目を光らせてて詳しく聞いていたから、きっと学校で尾ひれをつけて言いふらすに違いない。ああどうしよう、木曜日は父兄懇談会。二女のクラスでは私は最高齢の母親かもしれないのに「あれが荒井さんよ、あの年で痴漢にあったんですって・・・ナイフでオドされて現金奪われて、それをあの小さい体で投げ飛ばしたんですって・・・」ぐらいの尾とヒレをつけても不思議がないような二女なのだ。ううっ・・・。